泰山木の花に託して
- mapi10170907
- 2023年4月2日
- 読了時間: 2分
【コラム】 関西支部 村山 雅一 (しゃぼん玉)
四十数年前、兵庫県「正論の会」の会員であった私は、昨年中ごろより表現者クライテリオン「関西支部」の会員として、学びなおしを続けております。元「正論の会」の指導者であられた恩師佐藤武英先生はすでにご存命ではありませんが、当時新聞や雑誌に数多くの投稿をされ、のちに「マスコミに物申すー時流に抗してー」と題し一冊の本にまとめ上げられました。その中の一文を紹介させて頂くことにより、ロシアによるウクライナ侵略開始から一年、多くの方々が命を落とされているなか、亡くなられた方々へ謹んで哀悼の意に代えさせて頂きたいと思います。
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戦死の友思う泰山木の開花
元兵庫県「正論の会」
佐藤 武英
戦争中に学童疎開の途中で見た花に寄せる思いを綴られた、「泰山木に誓う反戦」を"ひととき"欄でしみじみ読ませてもらった。
泰山木の花さきしはなお昨日のごとし
かの寄宿舎の窓べにある日ふとその花さきしはなお昨日のごとし
そのかみの友半ば戦に死し身はひとりかくも拙く老いはてぬ
ことなべて終わらんとして思出はなお昨日の如く新らし
かの花やかの青空や
泰山木の花が咲くと私はきまってこの三好達治の詩を口ずさむ。戦いに明け暮れた遠いあの日。何も語らずかつ言えず、涼しく静かな眉をあげて去り、いじらしく非情に堪え、黙々とけなげになすべきことを尽くして消えた紅顔の者たちよ。ミッドウエイの沖から、レイテの海から、ガダルカナルの島から、早くはやく帰ってこい。あの純白の花が、歴史の不条理に殉じた多くの友の面輪と重なり、言葉もない。
時代は変わった。私は流れの外に立っている。だから、その花の咲くころが私には「反戦と平和」には結びつかず、彼らへのかなしくつらい「鎮魂」と、拙く生きのびて人生の夕日の中にたたずむ自分を問いただす、せつなく重い季節になる。
『朝日新聞』 昭和59年7月2日
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