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機動警察パトレイバー the Movie

【お勧めコンテンツと考察】 東京支部 松島 豊樹

 「ももいろインフラーZ」放送開始にちなみ、アニメ映画の機動警察パトレイバー the Movie(公開1989年)について、インフラ関連「東京湾埋立計画とロボット」と「姿を変え続ける都市」を中心に紹介・考察してみます。


 物語は1999年夏、主人公(達)は警察官です。 通常任務のほか職場の人間関係や仕事の進め方、組織間調整に対応する日常を描いた現代劇です。

 勤務地が東京湾埋立地で利便性が悪い為、食料調達に腐心する描写(敷地内での釣りと干物作り、菜園や鶏小屋)が多く、TV版では唯一出前を頼める中華料理屋での食中毒発生により組織壊滅する話などあります。 また、任務による過失破損対象への保険適用を保険のおばちゃんと検証する話など、渋めの話も多いです。

 本作に影響を受けた本広克行監督が「踊る大捜査線」を制作しており、類似点(オマージュ)が結構あります。


【東京湾埋立計画とロボット】

 物語背景として、国家的土木事業「バビロンプロジェクト」が進行中です。 木更津ー川崎間を結ぶ大突堤建設で交通の大環状線を整備し、(物語内で起きた)東京湾中部地震で大量発生した瓦礫で東京湾を埋め立てる。 地球温暖化による首都圏の水没対策、瓦礫処理、土地不足を解決する一石三鳥の計画です。

 その状況下で発展・普及したのがレイバー(汎用人型重機)で、湾岸開発に多数配備されますが、操作ミスや計画に反対する漁業組合・環境保護団体のテロ活動などレイバーによる事故・犯罪が多発し社会問題化します。 そこで警視庁警備部内に対レイバー部門を設立、パトロールレイバーを運用して対応にあたります。

 バブル期らしい作品設定です。 自分は真空チューブ内を走る日本縦断スーパーリニア新幹線とか実現して欲しいです。


 東京湾内の大規模インフラと言えば東京湾アクアライン(1961年勧告、1997年完成)がありますが、バビロンプロジェクトの元ネタがその2年前に提言されています。 1959年、「産業計画会議」で勧告された「ネオ・トウキョウ・プラン」です。

 本作品における東京湾開発とロボットに関する考察は、建築アナリストの森山高至さんのブログが面白いので紹介します。

 この中で実在のロボットメーカーボストン・ダイナミクス社にも触れられています。 以前、驚いた動画も載せておきます。(CGじゃ無いです。 なにこのバランサー!)

 コスト面で頓挫したネオ・トウキョウ・プランですが、実現したら日本の豊かさに資するモノになっていたでしょうか。 残念ながら現在の状況と照らし合わせると厳しそうです。 東京はより多くの資本と地方の若者を飲み込み、国内不均衡(地方衰退)や政治・行政・経済など中枢機能集中による被災リスクを更に高めたでしょう。

 やはりここは老朽化が進む日本全体のインフラ維持管理を急務とした上で、地方を支えるインフラ開発が妥当でしょう。(東九州新幹線豊予海峡大橋構想など大分シンポジウム成功を祈念して)


【姿を変え続ける都市】

 物語はレイバー作業性向上を実現する最新OS(オペレーションシステム)の政府採用を発端としたコンピュータウィルス犯罪による首都圏壊滅の危機、レイバー暴走事件の顛末です。

 政府、レイバーメーカー、警察上層部、現場警察官がそれぞれの立場(正義や保身)で事態収束を模索する中、犯人の動機や暴走のトリガーを推理する企業犯罪サスペンスの趣で、作中に散りばめられた旧約聖書のモチーフや詩編が様々な思索を喚起します。


 犯人の動機はある理由で明確に語られませんが、犯人は幼少期(1980年代 地価狂乱)より都内各地を複数回転居しており、開発により自分の住む古い街が「その価値を考えるよりも速く」次々と新しい街に置き換わり、その新しい街もすぐ古くなり壊されていく事に強い理不尽と不快感を感じていたと推察されます。

 私自身も子供の頃、複数回転居しています。 数年前、死ぬ前にと過去の住処を一通り尋ねてみましたが、痕跡を感じない程に変貌した場所では名状し難い喪失感を感じました。(その場所は区役所の古株の方が昔の地図を持ち出し、やっと確定できました。)

 生活空間を構成する住処や学校、遊び場所、商店、神社、お地蔵さんなどの個々の建造物は個人の記憶(情報・イメージ)が拡張現実(AR)の如く付加され、自分の物語の一部を構成する外部記憶媒体として機能しているのでしょう。

 昔ながらの街は記憶の引き出し装置や過去の生活の墓標として自己同一性を担保する精神安定効果がある事を実感した次第です。

 犯人は、自らの由来を忘却(喪失)させる都市開発にある種の傲慢を感じ、神でなくても人として裁きたくなったのかもしれません。


 以上、ネタバレを抑えて、書きたい事を書いてみました。 30年経過した現在でも鑑賞に耐えうる示唆に富んだ映画なので、気が向いたらご鑑賞ください。



【余談】

 若い方はピンと来ないと思いますが、初の普及したパソコンOS、ウィンドウズ3.1リリースが映画公開3年後なので、よくこんなお話を作れたなと感じます。

 本作のコンピューターウイルスと企業内リスク管理についても良記事がありました。 (映画鑑賞後の方が良いかも)


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