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ブランディングから見えてくる、脳と身体性

【コラム】 東京支部 吉田真澄


どこからお話しすればいいのでしょう? はじめに本稿は、宣伝ではありません。

私の職業はブランディング・ディレクターです。まあ、これは

ブランドを立ち上げたり、管理したり、メンテしたりの専門家とでもお考えください。

マーケティング関係の学会にも所属しているのですが、本人の気分としては

実務家8、アカデミア2、くらいのバランスではないかと思います。


で、何んでこんな文章を「表現者Linkage」に寄稿したかといえば、

時に、クライテリオン誌上や支部会でも話題となる、

脳や言語と身体性の関係について、ブランディングの視点からお話ししてみたいと

考えたからなのです。下記は、Foomiiという有料メルマガサイトから、

社会人マーケター及び研究者を対象として、年間シリーズで発信する

コンテンツの創刊号(無料配信分)の全文転載(点線内)です。

もちろん、管理者側からの承諾も得ています。

少々、気負いのある部分はお許しください。

また、ふだんとは文体も、スピード感も異なるとは思いますが、

まずはぜひご一読ください。本稿ならではの解説は、後段とさせていただきます。


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§1.脳はさぼりたがりやさんである


このメルマガでは、ブランドの本質や ブランディングのポイントについて

超真面目に、でも読者の方に 「なるほど!」と感得いただけるような

大胆な展開と語り口で解説していきます。

大げさに言えば、脳科学とマーケティングに 橋を架けるブランド論。

もちろんオリジナルです。では、いきなりですが、

有名な「ブランド本」や、ネットのブランドコラム等ではほとんど語られていない、

ブランディングの核心部についてお話ししましょう。

ここが肝心です。どんなに緻密なブランディング理論を振り回しても

ここがワカってないと、まったくうまくいきません。

なぜなら脳は、私たちが売り込みたいブランド名やキーワードやマークやロゴなどを、

なるべく見ないように、覚えないようにしているからです。

つまり、何でもかんでも情報を取り入れて、 脳の情報許容量を超えて

頭がバーストしたりしないよう、 厳重なディフェンス体制を敷いているのです。


なぜでしょう?


◆ 1日516kcal、脳は大食漢である。


人間の脳は、毎日約516kcal(*1)もの エネルギーを消費するといわれています。

これは、成人男性が 必要な1日の消費カロリーのおよそ20%にも当たります。

一年365日、毎日、休むことなく、小さめの海苔弁1個分くらいの

カロリーを脳が消費してしまうのです。容量にして体重の2%の脳が、

20%も持っていく。 しかも、他の器官に優先して、持って行っちゃうのです。

この脳偏重とも言える、エネルギー分配システムが 二足歩行以来、

大脳皮質を発達させてきた私たち人類の宿命なのです。

まさに脳ファースト。しかし、このアンバランス感は実は、

人間にとっても大きなリスクでもあるのです。

だって手足より先に、脳がカロリーを持っていってしまえば、

いざ、逃げなきゃ!といった局面で 頭は働いているけど、

身体がヘロヘロで まったく動けまへん!なんてハメになりかねません。

こんな時に外敵にでも襲われたら、目も当てられませんよね。

そこでエネルギー消費における大食漢であり、

指揮命令系統における暴君でもある 脳だって、少しは考えるのです。

(*1)人間の脳のニューロン数860億個であり、ニューロンの

1日あたり消費エネルギー量〈10億個/6kcal/日〉である

『人の脳は、何がそんなに特別なのでしょうか?』


◆脳は取り入れる情報を厳選し、単純化する。


脳は大きく分けて3つの方法で情報摂取量を コントロールしていると考えられます。


①生存や快楽や喜びにとって、ホントに大切な情報だけを取り入れる。

②取り入れた情報を、カテゴリーで大別して曖昧化して記憶する。

③取り入れた情報を、ふだんは忘れた状態にする。


つまり、脳は情報を圧縮して処理し、ふだんは情報を潜在化させる(忘れる)ことで

記憶に要するエネルギー消費量をセーブし、 他の器官に決定的なダメージを与えないよう 最低限の気配りはしているのです。 ふだんは、ヘッドクォーター(中央司令部)よろしく、 消費エネルギーを先取りして、手足に対して ふんぞり返って、威張っている脳ですが、

自分なりに努力はしている模様なのです。だって、身体くんが外敵に食べられちゃったら

その上に乗っかっている脳くんも一巻の終わりですからね。


こう、憶えてください。


あなたがブランディングのために 相手にする人々の脳は、

記憶エネルギー消費に関して、とても抑制的な「省エネ家電」のようなもの、

つまり なかなか記憶エネルギーを使ってくれない存在であると。

ブランディングの学術的な定義については 下記をご参照ください。

「ブランドを再定義する〜ブランドはなぜ忘れられ、思い出されるのか」


でも、実際にブランドをマネジメントする立場にある方や

これから、立ち上げようと考えている方に大切にしていただきたいのは、

次のイメージなのです。


【掟 No.1】

ブランディングとは、生理的にあまり情報を受容したがらない

「さぼりたがりやさんの、脳」と人間が繰り広げる、

記憶をめぐる駆け引きであり、闘いである

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本題に戻ります。人間の脳は、かようにアンバランスな存在であり、

時に身体を支配下に置こうとするようなのです。しかし一方で、

人間特有の曖昧かつ、パターン化した認識(認知的経済性による)

こそが、仮覚え・仮忘れ状態を可能にするため、

一つ一つの事象の認知に必要なエネルギーを最小化し、

人類を多種多様なテーマに向かわせることを通じて、

我々の文明や科学を発展させてきたとも言えるのです。

(目の前のコトだけに集中してたら、とても月なんて行けませんからね)

残念なことですが、私たちは物事に対する、みずみずしい知覚や

深い認識のあり方を犠牲(ブランディングとは、情報の記号化等によって

パターン認識化を促す因果な商売です)にすることによって、

ここまで進歩してきたとさえ考えられるのです。


「脳や言語を使うことによって、身体酷使を回避しようとする傾向」


近代以降、加速化するこうした傾向は、頭でっかち人間を

大量生産します。その意味では、いわゆる知識人も一般人もともに

頭でっかち人間なのです。そして頭(脳)へのオーバードライブが

過剰になれば、人間は現実感覚を失い、何をしでかしても

不思議ではありません。私たちは、毎日、毎日、

「腹減った、もっと食わせろ!先に食わせろ!」と叫び続ける

脳と付き合っていかなければならないのです。


私見ですが、近代人の脳は一見合理的でない


・毎朝、門前を掃除する

・心を清明にして、粛々と型を身につけていく

・神仏や祖霊に、深々と頭を垂れる

・岩場や崖の上に立つ

・急坂を下り降りる

・深場まで一気に潜行する

・過激な運動をする

・目的もなく街や野山をふらつく

・泥遊びをする

・物づくりや芸術活動に没頭する

・激しい論争をする

・極端に寒い場所や暑い場所で過ごす


上記のような行為を嫌がる気がします。でも、だからこそ

これらの行為は、脳の垢を取り去ってくれるのだと思います。

どうやら脳は、無難とコスパがお好きなようなのです。

そして、みんなでせっせとこのような行為の無価値化に努めてきたのが

近代市民社会なのかもしれません。


古来から、偉大な哲学者や思想家たちがこの問題に対峙してきました。

しかし、難解です。私も関心のおもむくままに哲学書や思想書を紐解き、

「一冊、まるごとわからん!」状態に陥っては、

己の実力のなさに泣いた経験が少なからず(未だにですが…)あります。

何かを突きつめようとすれば、不可避的に行き着いてしまう、

すぐれた哲学や思想や世界宗教などが提示してくれる様々な教えと、

この「脳と身体」の宿命的な関係と繋がりがあるはずです。


私の場合、職業人としての道を掘って掘って掘りまくっているうちに、

偶然、たどり着いた結論が今になって、はからずも前述のような

難易度の高い書物の理解を助けてくれているように感じています。

いくつになっても、思索することや発見することは喜びです。

そしてそれに栄養を与えてくれる、人々との交流も素晴らしいものです。


拙稿が、皆さんの思索の一助になれば幸いです。




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