「料理と五感」がもたらすもの
- 2月16日
- 読了時間: 4分
【コラム】 信州支部 長谷川正之(経営コンサルタント)
今まで仕事柄、行政の「農産物マーケティング」に関わり、農産物の「料理」としての付加価値アップにも取り組んできました。
名だたる料理人の創作料理に驚き、また町村のおばあちゃんたちに伝統料理の要諦を教えてもらい、感激したこともしばしばです。
最近、ご縁でつながっている地域の高校の食物栄養科生徒たちに、「食・料理について考える」という授業を行う機会がありました。通り一遍の調理の仕方だけでなく、料理の意味や価値についても考えて欲しいと思ったからです。
さて、何を話すかいろいろ考えた末、「料理と五感」を中心に、生きていく上でどう役立つか等について、時間の関係上話せなかったことを含めて、ここに記します。
「料理と五感」について、まず、五感とは何かという基本の確認です。「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」です。「視覚」は、目で料理の色・艶・形等を感じ、「聴覚」は、耳で調理音や咀嚼を感じます。「 嗅(きゅう)覚」は、鼻で香ばしさ香辛料等を感じ、「味覚」は、舌で五味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)を感じます。「 触覚」は、歯や舌や手で触り感じることです。
五感を総動員して作ったこの料理を、食べ手も五感を使って食し評価します。「美味しい」は食べ手が評価しない限り実現しません。作り手と食べ手の互いの五感が料理を通じて重なり合ったとき、「美味しい」が成立し「幸せ」を感じるのです。
人は美味しいものを食べると、「幸せ」を感じます。 ネット調査(全国2000人調査)で、次の文章「美味しいものを食べると〇〇」の「〇〇」に当てはまる最初に思い浮かんだ言葉は何か、との問いに圧倒的に多かった言葉は 「幸せ」です。
山の食材は山の幸、海の食材は海の幸。美味しいは、幸せの源泉なのです。 ならば、料理の作り手の職業は、単なる「料理提供業」ではなく、「幸せ提供業・幸せ創造業」ともいえます。生徒たちは、目を輝かせて聴いていました。
続けて、「料理は、そのプロセスが仕事そのものです」と話すと、お金をもらう仕事にまだ携わったことのない生徒たちはポカンとしています。そこで、その理由を説明すると、多くの生徒がうなずきました。
皆さんが将来携わる仕事の進め方は、PDCAサイクルといって、計画(Plan)実行(Do) 評価(Check) 改善(Action)が基本で、これは料理の進め方と基本的に同じです。
「計画」は、料理でいうと、誰にどんな料理をいつどのように作るのか、食材(地元産)・調味料、調理器具、調理の制限時間、食材購入予算等を計画し準備します。
「実行」は、実際に調理し味見をしつつ進めます。「評価」は、食べ手が食し評価します。「改善」は、感想から課題を見つけ、改善点を次の計画に役立てます。
皆さんが五感を活かしPDCAサイクルを回して作った「料理」の実習体験は、実際の仕事の取り組みに大いに役立つと私は思っています。
微笑みが浮かんだ生徒たちに、最後に言うつもりの次のことは、時間が無くほとんど話せませんでした。それは、「料理を通じて世界と関わる」ということです。
長野県は高地で地形が起伏に富んでいて、多品種の農産物が穫れ、食材とする料理も豊富です。昔からの伝統料理も各地で受け継がれていますが、県内ではお盆の行事食として野菜やキノコの「天ぷら」をご先祖様にお供えします。全国的には珍しいといわれます。
夏野菜のナス・ピーマン等は集中して採れ、野菜の消費量も長野県は全国トップクラス。 高地なので夏も比較的涼しく、揚げ物調理も苦になりません。 そして、この郷土料理は、日本のみならず世界各地にあり、それぞれの気候や地形等で食べ物や食文化も異なります。
世界は「ローカルの集合体」であり、個性的な食文化の集まりです。長野県のこの地とインドネシアのある村の食文化の共通点や相違点は何か。その要因を知ることは、人々の相互理解に大変役立つと思います。
その点で、地産の食材を調理して美味しい料理を作る技を持つ食物栄養科の高校生の皆さんは、世界各地の人々と、現地で食を通じてより相互理解を深める力を持っています。
これはけっして私一人の思い込みではありません。仕事で海外を行き来している長野県出身の若い友人から、ラインでこんなメッセージが届いています。
「海外で仕事をする際、食で仲良くなると上手くいく」「長野県の食を知って、海外の現地のものを食べ、共通点や相違点をワイワイ話すと打ち解け、幸せ気分になる」「長野の野沢菜のおやきに、長野の七味唐辛子をかけたいとメキシコ人が言い出し、本当に美味しかった」
私たちは、世界各地の人たちと交流する際、具体的行動として「自ら暮らす地域の料理や食文化をしっかり知り、相手国の現地の料理を一緒に食べ、食文化を理解する」ことが大変重要と思います。
五感を活かして料理を作り食べることは、世界共通の根源的な営みなのですから。
コメント