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世襲の弊

【コラム】 東京支部 吉田真澄

歌舞伎役者や能、狂言、伝統工芸、六道。そしてプロスポーツ選手や芸能人たち。傑出した技能や世界観を父子相伝で継承していくことの重要性に何ら異を唱える気はない。しかし、それが許されるのは、いずれその力量が満天下に晒され、先達をはじめ通人や厳しい批評家によって品定めされ、磨かれ、または打ち捨てられていくものであるからだ。


ところで、我々の生活の質に大きな影響力を持つがゆえに、本来、厳格に技量が問われるべき政治の世界には、この切磋琢磨の努めが無用のようである。さらに、芸道で大切にされてきた守破離の精神性が受け継がれてきた気配もない。


直近の衆院選の結果によれば、候補者の12・5%が世襲であり、自民党では約三人に一人、立憲民主党では約十人に一人がそれに該当する(JIJI. COM 2022年5月21日)とされている。一般的に世襲議員の問題点として、政界への新規参入ハードルを上げ、人的な新陳代謝の機会を減らすことや、先代・先々代から引き継いだ地盤、看板、資金力などによる不平等性等が指摘されるが、とりわけ私が問題視すべきだと考えるのは、親や祖父(曽祖父の代からの議員さえ存在する)から引き継いだ後援会組織との関係性である。自ら築き上げたわけではない、強大で堅牢な選挙応援団を一度、相続してしまえば、当代の候補者個人の思想・信条・政策に対する有権者の選択機会の提供、という民主選挙の根幹が脅かされる。つまり、お父ちゃんやお爺ちゃんの人格や思想・信条・政策案等を支持していた組織員たちの票が、ほぼそのまま、何の論議もなく次世代へと引き継がれていってしまうのである。これでは、守破離も超克も民主政治もあったものではない。


しかし、そんな伝来のネームバリューにのみ秀でた世襲議員が、ネームバリューゆえに重用され、出世レースで優位に立ち、自力で勝ち上がってきた議員たちを尻目に中堅クラスの大臣に就任しては、国民に向かって盛んに「自己責任!」や「規制改革」や「昭和の概念」などと叫んでいる姿を見ると、お前には「羞恥心」という感覚ないのか!と言いたくなる。しかも近年、このロクでもないシステムが、やはり人的代謝を妨げる小選挙区制度の下で、固定化されつつあるのがこの国、日本なのだ。そんなに改革がお好きなら、手始めに世襲議員問題の抜本的改革にでも着手してみたらどうだろうか。


中にはきっといい奴もいるのだろう、頑張っている個人もいるのだろう。だから一概に批判はできないが、せめて世襲議員の皆さんには、現行システムが政治に淀みや停滞をもたらすものであることを自覚し、よほどの覚悟を持って政治に臨んでもらいたいものである。


親の威光が与えてくれる大きな追い風から這い出るべく、実力を身につけ、躓きながらも自立を目指して闘い続けてきた真摯さ、という観点からすれば、私は、大方の世襲議員などより一昨年、不幸な経緯で夭逝した、神田沙也加に、より多くの敬意を払いたいと思っている。

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